天使の梯子
「……暎仁、お前、どうした?」
心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
暎仁が俺をチラッと見、て興味がなさそうな顔で目を逸らす。暎仁の様子は、明らかにおかしかった。
「そんなに忙しいのかよ。いいよ、俺が当直やるから帰って寝ろよ」
親友ぶってそんな白々しい言葉をかける俺に、暎仁はふっと笑った。
「楓と別れた」
ポツリとそう言った暎仁の言葉に、すっと血の気が引いた。
「な、なんで。お前、プロポーズするって」
俺とのことがあったあとも、暎仁と会っているみたいだったから、楓ちゃんが暎仁と別れる選択をするとは思っていなかった。
「できなかった。する前に、いなくなった」
心臓の音が、うるさい。身体が震え出すのを必死に押さえる。
楓ちゃんの泣きながら暎仁を呼ぶ姿が、頭に浮かんだ。
「いなくなったって……」
はあっと息をついた暎仁が伸びきった髪をぐしゃりと掴んだ。
「別れたいって直接言われたわけじゃない。だけど連絡とれなくなって、家も引っ越してて、職場も辞めてて。……そういうことだろ」
違う、違うよ、暎仁。楓ちゃんは、お前のこと、すごく大切に思ってた。誰よりもお前のことを想ってた。