天使の梯子
「直哉、俺、帰る。当直代わって」
急患を受けていたはずの暎仁は、ひどく興奮した様子で医局にいた俺のところに来た。
そんな暎仁を見るのが初めてで、驚く俺を無視して暎仁はさっさと帰り支度を始める。
「は!? 当直代わってって、なに言って……俺、昨日当直してんだけど。それにあの患者、お前がとったくせに」
「だって、楓が来た」
暎仁のその言葉に俺は固まった。
楓……ちゃんが? 事態を飲み込めない俺に、暎仁が続ける。
「さっきの急患に付き添って、楓が来た。倒れてるところに、偶然居合わせたらしい」
見たこともないほど興奮してる暎仁に少し驚くけど、それも仕方ないかと納得する。
この四年間どれほど楓ちゃんへの想いを募らせていたのか、俺はそれをよく知っている。誰よりも、それを知っている。
「あの救命士、楓のこと狙ってたし。あのまま帰してたら救急車の中で口説く気だったな、腹立つ」
険しい顔をして白衣を脱ぎ捨てた暎仁にハッとする。