天使の梯子

そして病院に着いて、俺は医局に、楓は患者のいる病室にそれぞれ向かう。


俺にとってその患者は楓を連れてきてくれた恩人なんだけど、まさか救急救命医が患者に発作起こしてくれてありがとう、なんて言えるわけがない。


今度、様子を見に行ったときに心の中でお礼だけ言っておこう。


そう思いながら医局に入ると、直哉がいて顔が険しくなる。


次会った時に平静でいられるか自信がなかったけど、その顔を見て目を見張った。


「……お前、どうした。その顔」


「お前が言うなよ」


たしかに俺も殴ったけど、明らかに俺が殴った時より悪化してんだろ。


マジマジとその顔を見る俺に、直哉が苦笑いする。


「お前に殴られたあと、美優にも殴られた。グーでな。介抱なんてとんでもないわ」


「……話したんだ」


美憂ちゃんてのは、二年付き合っている直哉の彼女だ。


すごい大事にしてるのになかなか結婚しないとは思ってたけど、あのことがあって俺に遠慮してだったんだろうな。ま、当然だけど。


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