天使の梯子
あの人は医大生だから忙しくて、会うときはいつもあの人の都合に合わせていた。
五年も付き合っていたのに、わがままを言ったことも一度もない。
私はあの人に嫌われたくなくて、寂しいも会いたいも言えずにひたすら我慢をしていたように思う。
離れたのは、私からだ。
別れも告げず、携帯の番号を変え、職場を変え、部屋を引っ越した。
別れを告げる勇気も出ず、なにも言わずに私はあの人から逃げ出した。
私はあの人のことが、好きだった。すごくすごく、好きだった。
好きだから、嫌われたくなくて……軽蔑されたくなくて、
だけど別れたいなんて言えなくて、ずるい私はなにも言わずに逃げて出してしまったんだ。
もう会うこともないだろうと思っていたのに、こんな形で再会するなんて……。