天使の梯子
下を向いていた私の目の前で、黒の革靴が止まった。
はっと顔をあげると、思いもよらない人が私の目の前に立っていて、驚いて目を見開く。
「楓ちゃん、久しぶり」
白衣姿のその人は、あの頃となにも変わらない優しい笑顔を見せた。
『暎仁には、ナイショだよ』
あのときに初めて見た少し意地悪な笑顔で笑ったこの人の顔が浮かぶ。
思い出したくないその記憶に、身体が震えて声がでない。
ああ、あの占いは当たってた。信じて家から出なければよかった。
そうすればあの人にも、この人にも再会することはなかったのに。
神様、これはなにも言わずに逃げ出したずるい私への罰なのでしょうか。
現実から目を背けたくて、私を見下ろすその人から目を逸らした。