天使の梯子
「楓、乗って」
有無を言わせない口調に、人質のバッグを見る。私がそれを取り戻したがっていることを諏佐さんは分かっているんだろう。しっかりと後ろ手に隠している。
隙を見て奪うなんて、とても出来そうにない。
仕方なく助手席に乗ると、諏佐さんがドアを閉めてくれる。
それから後部座席にバッグを置くだろうと予想していた私を裏切って、諏佐さんはバッグをトランクに積んだ。
絶望的な気分でうつむく私に、運転席に座った諏佐さんが笑う気配がした。
「大事な人質だからね。そう簡単に手が届くところには置かないよ」
それもそうか。この人がそんな安易なことをするわけがない。
だいまい、私がこの人に勝てるわけがないんだ。
私の考えていることなんて、いつもお見通しだった。