天使の梯子

なんだかついてないなと思って帰ろうと思ったら、電車が止まっていて足止めをくってしまった。


今日は本当についてないと思いながらため息をつく。


ここで初めて、テレビで見た占いのことが頭をよぎった。


『思わぬハプニングに巻き込まれ波乱尽くしの一日になるでしょう』


そんな言葉が甦って、慌ててそれを頭の中から打ち消した。


ダメダメ。そう思ったら全部占いのせいにしてしまいたくなっちゃう。


それにハプニングってほどじゃないし、波乱だって起きていない。


気を取り直して電車をしばらく待っていたけど一向に動く気配がなくて、あきらめて違う駅まで歩くことにする。


そこからが、私の本当の波乱に満ちた一日の始まりだった。


「あ……」


駅の外に出た私は、空を見上げて立ち止まった。


雲の切れ間から、光が地上に降り注いでいる。


薄明光線と呼ばれるそれは、美しい自然現象として知られていて、通称『天使の梯子』と呼ばれている。


神秘的なその現象に、目を奪われた。


昔のことを思い出して、その空を見たまま泣きそうになる。


こんな往来の場所で泣くわけにはいかないと目に力を込めて歩き出そうとしたその時だった。

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