天使の梯子
「指輪はしてないけど、まさか結婚はしてないよな」
「し、してませんけど」
反射的にそう言ってからはっとする。
しているって言っておけば、バッグを返してもらって帰れたかもしれないのに。
ばか正直に答えたことを激しく後悔する私に、くくっと諏佐さんが低い笑いを漏らす。
「じゃあ、彼氏は?」
その質問にぐっと言葉に詰まる。そんなもの、いるわけがない。私の心の中にいるのは、今も昔もひとりだけだ。
「い、いる……」
そんな嘘をついても、きっと諏佐さんにはお見通しだろう。そう思ったけど、笑っていた諏佐さんが急に無表情になって私をじっと見つめてくる。
「いるの? 本当に? 俺以外の誰かに抱かれた?」
その言葉に、すっと血の気が引くのを感じて思わず諏佐さんから目を逸らす。