天使の梯子
「そうだな。あれから四年が経った。だけど俺は、楓の口から別れたいとも、その理由も聞いてない」
その言葉にぐっと唇を噛む。この状況は私が圧倒的に不利だ。
諏佐さんが言っていることに、なにも間違いはない。
私は逃げただけだ。なにも言わず、なにも残さず。ただ、この人の前からいなくなっただけ。
今なら言えるだろうか。この人に、あのとき言えなかった別れの言葉を。
今なら、嘘をついて……もう好きじゃないと、会わないと告げられるだろうか。
私は息を吐いて、覚悟を決めて諏佐さんと視線を合わせた。
真っ直ぐに私を見つめる眼差しに、心が痛くなる。この瞳が好きだった。私を見つめるときに少しだけ甘さが滲む、この瞳が好きだった。
けれども、今のこの人の瞳に宿る感情がなんなのかは、ちっともわからなかった。
その瞳には、情けない顔の私が映っているだけだ。
この人が……もし、あのとき私がいなくなったことにずっと苦しんでいたならば、なおのこと終わりにしなくてはいけない。