天使の梯子
「楓、お願い」
どのくらい時間が経ったのだろう。
懇願するような諏佐さんの声を、私は朦朧とした意識の中で聞いていた。
「楓、俺から、離れていかないで。俺から、逃げないで」
もし、四年前にこの言葉を聞いていたならば、なにか変わっていたのだろうか。
この人のことを、信じられたのだろうか。
「楓、好きだ。お前のこと、愛してる」
一度も聞いたことのない、この言葉をあの頃聞けていたならば……どんなに幸せだっただろう。
「楓……」
何度も繰り返し私の名前を呼ぶその声を、やっぱり好きだなと思ったら、私の目から涙がこぼれ落ちた。
その涙を、諏佐さんが舌で舐めとってくれる。
どうして黙って逃げ出した私を、この人はここまで想ってくれるのだろう。
わからない、なにもわからない。考えたくない。なにも、考えられない。