天使の梯子

「あの、諏佐さん。私の服が見当たらないんですが……」


よーくベッドのまわりを見回すけど、やっぱりないよね。


「うん、だろうね。隠しちゃったから」


笑顔でそう言われて、私は固まってしまう。


「か、隠したって……」


この状況で気を失うくらいまで抱かれたことも信じられないのに、服まで隠すって……。本当にこの人は、あの暎仁くんなんだろうか。


こんなことをする人じゃなかったはずなんだけど。


「人質二号。言っとくけど、俺が納得できる答えを聞くまでは帰す気ないから」


じっと私の顔を見つめている諏佐さんの瞳は、真剣そのものだ。


冗談でバッグを奪ったり服を隠したりするような人ではない。多分、本気で私から答えを聞くまでは帰してくれないだろう。


だけど……私にこの人が納得できる答えなんて、そんなの出せるわけない。


「そんなの、仕事だってあるのに。困ります」


逃げ道を完全に閉ざされて、それでもどうにか突破口を見つけようとする私に諏佐さんはニヤッと笑う。


「わかってるよ。俺ももういい大人だから、仕事を休ませてまで閉じ込めたりしない。だから、今日中に聞かせてもらう。絶対、ね」


本気の瞳でそう言われて、ぐっと言葉に詰まる。この人、本当に本当の本気だ。


だからって裸でいろっていうのは、あんまりだと思うんだけど。


「そ、それにしたって、服は……着たいところなんですけど」


私の至極全うだと思う私のその発言に、諏佐さんは不思議そうに首を傾げる。


「なんで?」


なんでって……。そこでなんでって言われるのか逆に私が聞きたい。

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