天使の梯子

鈍い音をたてて床に倒れる直哉さんが、低い呻き声をあげる。


「な、直哉さん。大丈夫ですか?」


倒れている直哉さんに大丈夫だろうかと駆け寄ろうとする私を、諏佐さんが引き止める。


「楓、あんな奴の心配しなくていいから。楓は優しすぎる。直哉、本当にもう帰れ。俺の理性が持ってるうちに」


ふらつきながら立ち上がった直哉さんの口には、血が滲んでいる。


「でも、血が……」


ティッシュペーパーくらい渡してあげてもと思うけど、諏佐さんは私を離してくれない。


「あいつも医者だから。あれぐらい自分でなんとかするし、彼女にでも介抱してもらえるだろ」


諏佐さんのその言葉に、直哉さんは殴られた頬を撫でて苦笑いした。


「ああ。ずっと待たせてたけど、これでやっとプロポーズできるわ」


もう一度私にごめん、と謝って頭を下げた直哉さんは私たちに背を向けて扉に手をかけた。


「直哉」


その後ろ姿に、私を抱きしめたままの諏佐さんが声をかける。


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