天使の梯子

私から会いたいと言ったこともない。あの頃はなによりも暎仁くんの都合を優先していた。


今思えば、呼び出せば応じる都合のいい女というやつだったんじゃないかと思うほど、私は彼に遠慮していた。


「いや、でも楓ちゃん優しすぎるよ。あいつ甘えっぱなしじゃん。たまにはがっつりわがまま言ってもいいんじゃない」


そう声をかけてきたのが、直哉さんだった。


その頃、私の友人に直哉さんを好きだった子がいたから、その関係でその場にいたんだと思う。


「わがままなんて。今、暎仁くんすごく忙しそうだし」


その頃、暎仁くんは本当にすごく忙しくて。ほとんど休みもとれないような状態だった。


そんな中で私に会う時間を作ってくれてるだけでも、いいと思わなきゃと自分を言い聞かせていた。


「まあ、それはそうなんだよね。暎仁、期待されてるから。あいつも大事な時期って分かってるから、必死なんだよね」


直哉さんの言葉に、私はうなずいた。それも私はよく分かっていたし、暎仁くんがどれだけ努力しているかも知っていて、そんな暎仁くんを本当に尊敬していた。


「はい。それも分かっていますから」


微笑んだ私に一瞬、自嘲的な笑みを浮かべた直哉さんがパッと明るく微笑んで私の頭を撫でる。


「本当に楓ちゃんは優しいね~。暎仁にはもったいないよ」


そんなことない。私は優しくなんてない。

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