天使の梯子
また救急要請があるかもしれないのに、そこまでしてもらうのも申し訳ない。
なかなか諦めてくれない救急隊の人に押されながらも必死で断っていると、この病院の医師が出てきたらしい。
「あれ? ルートとってあるんだ」
「そうなんですよ。看護師さんがたまたま居合わせて。心臓マッサージもしてくれていたんです。この患者さん、ラッキーですね」
そんな声が聞こえたけど、ここまで来れば本当に私に出来ることはない。
あの患者さんのことは気になるけど、もう帰ろう。
「……かえ、で? ……楓?」
最寄り駅を調べようと携帯を探すために鞄を探っていた私は、名前を呼ばれて顔を上げた。
そこにいた人の顔を見て、驚いた私の手からバッグが落ちた。
ウソ、でしょ。なんで、こんなところで……。
震える身体で一歩下がった私から、その人は目を逸らさなかった。
それどころか、どんどん私のほうに近付いてくる。ここから離れなきゃと思うのに、私の足は全然動いてくれない。