天使の梯子
「……っ、かわいい。三十過ぎて笑顔にときめくとか、まだまだいけんな、俺」
「ん? 暎仁くん?」
「なんでもないよ。こっちの話」
それにしても、どうしてそんなに苗字で呼ばれるのが嫌なんだろうか。もしかして嫌いなのかな、苗字。
「暎仁くん、自分の苗字嫌いなの?」
「いや、別に。楓に呼ばれるのが嫌なだけ。なんか楓には名前で呼んでほしい。苗字で呼ばれると距離感じない? だから、諏佐さんて呼ばれると寂しい」
本当に寂しそうな顔で言われて、胸がキュンとなる。
五年も付き合っていたのに、私はこんなに暎仁くんのこと知らなかったんだな。それってすごくもったいない。
これからは、もっとちゃんと暎仁のことを知っていこう。いろんな魅力を知って、私はきっと、もっと彼のことを好きになる。
「うん。暎仁くんて、たくさん呼ぶね」
なんだか暎仁くんの名前まで愛しくなって微笑んだ私をじっと見ていた暎仁くんが、なぜか私の身体に巻いてあった布団をはぎとる。