キミは僕に好きとは言わない
こんなひと気の少ないところまで引っ張ってきたくせに、黙ったままなんて卑怯だ。
ずるいよ、そんなの。
「なんか言ってよ……」
今にも消えてしまいそうなほど、弱々しい声だった。
ついさっきまでの勢いは跡形もなく消えている。
……わたし、すごく怒ってるんだよ?
大好きな先輩とのデートだったのに、どうして桃矢と2人きりにならないといけないの?
理由があるなら言ってほしい。何も言わないから困るんだ。
真っ直ぐに桃矢の姿を捉えた。
けれど、桃矢はわたしを見てくれない。
「もういい。……先輩のとこに戻るから」
前髪の奥に隠された見えない顔に怯えて、逃げるようにそう言った。
何も言わないつもりなら、これ以上構っていられない。1秒でも早く先輩の元に戻った方がずっといい。
くるりと背中を向け「じゃあね」と呟くと、
「なずな!」
なぜか手首を掴まれた。