キミは僕に好きとは言わない


震える唇で息を吸い、先輩が好きだと伝えようとした。

けれどーーーーーー。


「っ………」


喉の奥で言葉が止まって、ごくりとそのまま飲み込んだ。

なんで、こんなときに……。


「なずなちゃん……?」


先輩が不安そうにわたしの顔を覗き込む。

わたしは声が出せないまま俯いた。


……どうして。

どうして、こんなときにあいつの顔が浮かぶんだろう。


先輩に「好き」だと伝えようと思ったその瞬間、なぜかあいつの……桃矢の顔が頭をよぎった。


胸をぎゅっと締め付けられて、息をするのも苦しくなる。


「………」


重ねられていた先輩の手を、逃げるようにぎゅっと握った。


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