キミは僕に好きとは言わない
けれど、そんな幸せも長くは続かない。
満面の笑みで先輩の隣を歩いていたら、次の瞬間……。
「なずなちゃーーーん!」
なんとも情けない声が耳の奥を突き抜けた。
バッと後ろを振り返ってみると、涙を浮かべながらこちらに向かって走る桃矢が見えた。
……あぁ、そうだ。
また桃矢に何も言わないで家を出ちゃったんだっけ。
「はぁ……はぁ……先に行くなら一言言ってくださいよ……!」
「あはは、すっかり忘れてた。ごめんね」
息を切らす桃矢に対して、あっさりとした返事を返す。
未だに桃矢との距離感を掴めずにいるせいで、交わす言葉もどこかぎこちない。
「僕はなずなちゃんがいないと、1人じゃ準備できないのに…… 」
そんなわたしの気も知らず、桃矢はしゅんと肩を落として、結べていないネクタイを見つめている。
「別に毎日手伝ってたわけじゃないじゃん。それくらい1人でやってよね」
たまに桃矢の身支度を手伝ってあげることはあったけど、言葉の通り毎日ではない。
ネクタイだって、どちらかと言えば結べていない日の方が多いんだ。