キミは僕に好きとは言わない
名残惜しいが先輩に別れを告げ、早足に校舎へと入って行く。
途中で桃矢が「歩くの速いです〜!」と、甘ったれたことを言ってきてムカついたけど、無視して歩き続けた。
わたしの幼なじみの行動は、本当に理解不能だ。
ヘタレなのかそうじゃないのか、そろそろはっきりしてほしい。
桃矢の本心がわからないから困るんだよ。
どう接したらいいのか、わからなくなるんだもん………。
「ほら、さっさと座って」
「は、はい……!」
教室に着くと、すぐに桃矢を椅子に座らせた。
だらしなかったネクタイをきちんと結んで、ついでに寝癖も直してあげる。
「相変わらず前髪長いなぁ。わたしが切ってあげようか?」
目元まで伸びた前髪を持ち上げて、久しぶりによく桃矢の顔を覗き込んだ。
「うわぁ!?急に前髪あげないでください!」
「だって鬱陶しいんだもん」
「僕は長い方がいいんです!」
けれどすぐさま顔を左右に振られ、桃矢の瞳は前髪の奥へと隠れてしまった。