キミは僕に好きとは言わない





「水族館に来るの久しぶりだったけど、たまにはいいもんだね」

「はい、すっごく綺麗でした!」


ひとしきり水族館内を回った後、わたしたちは出口付近にある小さな休憩所に来ていた。

いくつかベンチが並んでいて、遊具のない公園みたいな場所。


「そろそろ休憩しよっか。何か飲み物買ってくるから、座って待ってて」

「わかりました。ありがとうございます」


繋いでいた手を離し、先輩が早足に離れていく。

わたしは先輩の言葉通り、ベンチに腰を下ろした。


「ふぅ……」


温もりの消えた手をぎゅっと握りながら、息を吐く。


なんか、どっと疲れちゃった。


わたしのせいで気を使わせちゃったし、何より桃矢の名前を出してからというもの、先輩の作り笑顔しか見ていない。


いくら幼なじみとはいえ、彼氏とのデート中に他の男の名前を出すのはまずかったかなぁ……。

後悔してもしきれないほどの罪悪感が胸の奥で濁る。


< 181 / 289 >

この作品をシェア

pagetop