キミは僕に好きとは言わない


「そ、そんな怒ることねーだろ。悪かったよ」


そして恐怖に耐えきれなかった男の人は、弱々しく言葉を吐いてから早足に逃げて行った。


「ったく……ナンパなら他当たれっつーの」


去っていく男の人の背中を見ながら、桃矢がガシガシと頭をかく。

わたしは開いた口が塞がらず、まぬけ面で桃矢を見た。


「なに変な顔してんだよ。大丈夫か?」

「う、うん…………」

「ならよかった」


呂律が回らない舌でそう返すと、桃矢が小さく笑った。

その笑顔を見てようやく安堵する。


変だな……。

怖かったはずなのに、桃矢が来てくれた瞬間すごく安心できた。


あぁ、桃矢が来てくれたからもう大丈夫だって思えて。

女の先輩に絡まれた日から、わたしは桃矢に甘えてばかりな気がする。


< 186 / 289 >

この作品をシェア

pagetop