キミは僕に好きとは言わない
「そ、そんな怒ることねーだろ。悪かったよ」
そして恐怖に耐えきれなかった男の人は、弱々しく言葉を吐いてから早足に逃げて行った。
「ったく……ナンパなら他当たれっつーの」
去っていく男の人の背中を見ながら、桃矢がガシガシと頭をかく。
わたしは開いた口が塞がらず、まぬけ面で桃矢を見た。
「なに変な顔してんだよ。大丈夫か?」
「う、うん…………」
「ならよかった」
呂律が回らない舌でそう返すと、桃矢が小さく笑った。
その笑顔を見てようやく安堵する。
変だな……。
怖かったはずなのに、桃矢が来てくれた瞬間すごく安心できた。
あぁ、桃矢が来てくれたからもう大丈夫だって思えて。
女の先輩に絡まれた日から、わたしは桃矢に甘えてばかりな気がする。