キミは僕に好きとは言わない


「いい天気だね」


空を仰ぎながら、先輩がのんびりと言う。

わたしは手渡された缶ジュースを開けながら「そ、そうですね……!」と、ぎこちなく返した。


水族館に来たのに、こんな何もない広場にいるのは変な感じだ。

周りには何もないせいで静寂が続いているし、穏やかな静けさとは程遠い時間。


缶ジュースを持つ手に力が入った。

なにか言わなきゃ………。


「あのっ、先輩!」

「ん?」

「えっと、その………桃矢が生意気なこと言ってごめんなさい……」


言葉にできたのは、気の利かない適当な言い訳。


「ううん、俺も言い過ぎちゃったからお互い様だよ」


先輩は申し訳なさそうに笑った。


こんな風に笑う蓮先輩を見るのは、今日でいったい何度目なんだろう。

思えば、わたしはいつも先輩に迷惑をかけてばかりだったかもしれない。


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