キミは僕に好きとは言わない
わたしは、どうしようもないほど桃矢のことを好きになっていた。
地味で、ヘタレで、弱虫で。王子様には程遠い、手の掛かるあいつ。
幼なじみは恋愛対象外だとずって言っていたのに、なんて気の代わりが早い女だ。
最低。悪女。人でなし。
蓮先輩を振ってまで好きになるような人なの?
桃矢より蓮先輩の方がずっとずっと素敵な人だってことは、付き合ったわたしが1番よく知っている。
だけど、わたしが選んだのは桃矢だ。
完璧な王子様よりも、へタレなあいつに落ちてしまったんだから。
「謝らないで。俺が桃矢くんに負けたんだ」
蓮先輩の温かい手が頭の上にそっと落ちる。
「俺は、桃矢くんほどなずなちゃんを想えてなかったみたい」
「そっ…………っ、……」
そんなことないです!と言いかけて、喋るのをやめた。
先輩は優しすぎるくらい優しい人だから、こんな勝手なわたしを許してくれる。
その優しさにこれ以上甘えちゃいけないと思った。