キミは僕に好きとは言わない
見た目は完璧な王子様なのに、中身は変わらずヘタレのままで、降りかかる女子の攻撃に桃矢が戸惑っている。
チラチラとわたしを気にする素振りを見せていたが、わたしが擁護する暇もなく輪の外へと追い出されてしまった。
なんか、変な光景。
桃矢の周りにこんなに人が集まってるなんて初めてじゃない?
ついさっきまでバカにしていた人たちも口を揃えて「かっこいい」と言っている。
輪の中には本気で恋をしたような瞳を浮かべる人も………。
「ちょっと、なずな!杉浦があんなにイケメンだったなんて聞いてないよ!?」
輪の中心から追い出されたわたしに向かって、皐月が小さく耳打ちをする。
「イケメンだなんて、そんな……」
桃矢は髪型を少し整えただけで、別に顔が変わったわけじゃない。
よく見ればいつもの見慣れた顔だし、好きだと自覚していなければ、かっこいいとさえ思わなかったかもしれない。
けれど、世間的にはかなりのイケメンだったらしい。
顔がよく見えるようになっただけで、こんなにも世界は変わるものなんだ。