キミは僕に好きとは言わない
蓮先輩に手を引かれ、涙を拭いながら廊下を歩く。
そして、連れて来られた場所は屋上に続く階段だった。
「使って」
と、先輩がハンカチを差し出す。
わたしは流れるようにハンカチを受け取って「ありがとうございます……」と、言葉を吐いた。
どこか見覚えのあるハンカチは、たぶん先輩と初めて会ったあの日と同じものだ。
あれからそこまで日は経っていないはずなのに、今では遠い昔の記憶みたい。
「それで………何があったのか、聞いてもいいのかな?」
階段にゆっくりと座り込んで、先輩が心配そうにわたしを見つめている。
わたしはこくりと頷いてから、隣に座って全てを話すことにした。
先輩と別れたことを桃矢に言わなかったこと。
そのせいで桃矢を傷つけてしまったこと。
それでも尚、好きだと言えていないこと。
つい最近まで付き合っていた相手に話していい内容なのかはわからないけれど、先輩は黙って最後まで聞いてくれた。