キミは僕に好きとは言わない
「桃矢」
油断しているであろう桃矢の名前を呼ぶ。
「なに?」
予想通りの気の抜けた返事が戻ってきたから、わたしはすかさず桃矢の襟元を掴んで引きつけた。
その瞬間「うわっ!?」と、マヌケな声が聞こえて。
桃矢の声を掻き消すように、唇で塞いだ。
触れていた時間は1秒にも満たなかったと思う。
それでも騒がしくなる観客の声が少しだけ痛かった。
「なずなちゃん……っ、今……ほんとに………」
桃矢はわかりやすく頬を紅色に染めていた。
さっきまでニヤニヤしてたくせに、形勢逆転ってやつ?
やっぱりまだ、わたしの方が立場は上でいいらしい。
そのうち振り回されてしまいそうだけど、今だけは笑ってやる。