キミは僕に好きとは言わない
「それに、ナズナの名前の由来が『撫でたいほど可愛い』って意味からきてること知ってた?」
ふわりと、先輩から漂う甘い香りが近づいた。
甘い………。
これって……花の香り………?
包み込まれる甘さに酔いしれていたら、いつのまにか頭の上にぬくもりが落ちていて。
「キミにぴったりの名前だね」
ーーードキン
先輩が、わたしの頭をそっと撫でた。
こ、これって……世にいう頭ポンポンってやつ?
空想でも妄想でもない現実世界なのに………王子様に頭撫でられちゃった……。
自分の体温が急激に上がっていくのがよくわかる。
これ以上ドキドキできない!と、訴えてくるほど心拍数が速い。
そして、落ち着かないわたしに気づくこともなく、先輩は更に追い討ちをかける言葉を言った。
「俺は好きだよ、ナズナ」
っ…………。
胸の奥が、ぎゅっと縮むような感覚がした。
違うよ。わかってるよ。
先輩が好きなのは“ナズナ”であって、わたしに向けて言ったわけじゃないことくらい。
でも、それでも………。
わたしの心を掴むには、十分すぎる一言だった。