キミは僕に好きとは言わない
「……っと、もうこんな時間だ。そろそろ行かないと」
近くの壁に掛かっていた時計を見て、先輩がそう呟く。
えっ、もう行っちゃうの……?
「それじゃあまたね、なずなちゃん!」
「あっ……」
わたしをこんなにドキドキさせておきながら、先輩はあっさりと廊下の奥へと行ってしまう。
待ってください!と言いかけて、言葉はグッと飲み込んだ。
掴み損ねてた右手は行き場を失ったまま、空気を掴んで握りしめる。
結局引き止めることはできず、離れていく先輩の背中をただぼんやりと見つめていた。
「行っちゃった………」
先輩が撫でてくれた頭には、まだぬくもりが残っている。
これは運命って呼んでもいいのかな。
同じ学校に通っていても、学年が違うんじゃ接点はないし、これから先ずっと知り合えなかったかもしれない。
それにね、わたしが運命だと思えば、本当に運命になるんだって信じたい。
こんなこと言ったら、また蘭に「軽すぎる運命だよね」なんて言われちゃうかな?
でも、それでもいいよ。
わたしは萩原先輩に心を奪われちゃったんだから。
「顔、熱い……」