キミは僕に好きとは言わない


今まで数え切れないくらいの恋愛マンガを読んできた。


王子様が言うセリフにだって、たくさんドキドキしてきたけど、現実とマンガはまるで違う。

本物のドキドキは、火傷しそうなくらい熱くて苦しいの。


ぎゅっと胸が締め付けられて、苦しいのに幸せで、言葉だけじゃ全てを表現できないこのふわふわとした曖昧な気持ち。


もしたった一言、言葉を選ぶとするなら……。


恋と呼ぶんだと思う。


わたしは、たった一瞬で萩原先輩に落ちてしまった。


数分前では、王子様とつり合うわけがないと思っていたのに、高まる気持ちを抑えることはできなくて。


叶わない恋かもしれない。

好きになるだけ無駄かもしれない。


でも仕方ないじゃん?

好きになっちゃったんだから。


手渡されたばかりのハンカチはなんだか無性に温かく、握り締めると先輩が近くにいるような気がした。


「先輩……」


恋を知ったばかりのわたしは、どうしても萩原先輩しか考えられなかった。


そう、だから。


「ーーーーちっ、会わせないようにしてたのに……失敗した」


死角になっていた壁越しに聞こえた不可思議な声にすら、気づくこともできなかったの。



先輩、恋しちゃったみたいなんです。


こんな雑草でもまた笑いかけてくれますか?




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