キミは僕に好きとは言わない
「……わたしね、好きな人ができたんだ」
にこりと笑顔を浮かべてから、そう答えた。
桃矢は一瞬驚いた顔をしていたけれど、慌てた様子で「誰ですか!?」と、顔を近づけてきた。
「桃矢に教えるわけないじゃん。恥ずかしいし」
教えたら後で質問攻めにされそう。
普段はビクビクしてるくせに、わたしが男の話するとすぐに飛びつくんだもん。
人の恋路地心配しすぎなんだよ。
「まぁ、そういう訳だから離して」
「嫌です!どうせろくでもない人に決まってます!」
「はぁ!?勝手に決めつけないで。少なくとも、桃矢よりは頼りになる人だから」
そう吐き捨てると、掴まれていた手を強引に振り払った。
桃矢には悪いが、勝手な言い掛かりで先輩を否定してほしくない。
先輩とはまだ一度しか話したことはないけど、絶っっ対素敵な人だって思うから。
「じゃあ、今度こそ行くね」
「な、なずなちゃ……」
振り返ることもしないまま、再び背を向けて歩き出した。