キミは僕に好きとは言わない


「頑張ってください」


ほらね。

桃矢は心配性だけど、わたしの気持ちを否定したりしない。


なずなちゃんが言うなら……って、いつも最後には賛同してくる。

今回だって、いつもと同じでしょう?


「うん、頑張る!」


わたしは元気よく返事を返した。




幼じみだから。そんな簡単な理由で、わたしは桃矢のことを1番よく知っている気でいた。

地味で、ヘタレで、臆病で、手の掛かる幼じみ。


1人じゃ何もできない非力なやつ。桃矢は小さい頃からずっと変わらない。


…………そう、思っていたのに。


現実はなかなか上手くいかない。


誰よりも桃矢の近くににいたくせに、わたしは誰よりも桃矢のことを知らなかった。


ヘタレなあいつがとんでもない秘密を隠していたなんて、鈍感なわたしが気づけるわけなかったんだから。




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