キミは僕に好きとは言わない
「えっ!?」
まさか桃矢の口から「行く」の言葉が出るとは思わなかった。
てっきり「僕は遠慮しておきます」の一言で終わると思っていたのに………。
「桃矢くんならそう言ってくれると思ったよ。当日、楽しみにしてるね」
「はい、僕も楽しみに待ってます」
いつも猫背な桃矢が、急にピンッと背筋を伸ばしている。
姿勢を正すと、萩原先輩と背丈はほとんど変わらないらしい。
この一瞬だけ、ヘタレな桃矢がなぜか男らしく見えた。
「じゃあ、俺はそろそろ教室に戻るよ。またね、なずなちゃん」
「は、はぁ…… 」
抵抗する暇もなく、いつの間にか先輩との時間が終わってしまっていた。
最後に見るのは、今日も今日とて先輩の背中。
せっかくわたしのところまで来てくれたのに、なんだか複雑な気持ち。
これも全部、桃矢のせいだ。
桃矢のせいで台無しだよ。