キミは僕に好きとは言わない


「へっくしゅ………!」


だから、早く準備しよう。

いつまでも下着姿でいるもんじゃない。可愛さゼロのくしゃみが響いて、鼻の奥がツンと痛む。


先輩の前でこんな不細工なくしゃみが出たら最悪だ。夏だからって油断大敵。



今日のために買ったワンピースをもう1度身体に当ててみて、やっぱりこれだと頷いた。

すると、次の瞬間……。


ーーーガチャ


「なずなちゃーん、ちゃんと起きてますかー?」


わたしの部屋の扉が、ガチャリと音を立てた。


「へ?」

「あっ…」


そして、部屋の扉を開けた犯人の桃矢と目が合う。


固まっていたのは、時間にしたらほんの数秒だったと思う。

持っていたワンピースが滑り落ちて、廊下から溢れる風がひやりと肌を撫でた。

ま、ちょっと………な……!?


「なずなちゃん、あのー……」

「きゃあああああ!?」


< 83 / 289 >

この作品をシェア

pagetop