キミは僕に好きとは言わない


桃矢が近くにいたのは、ほんの一瞬だけだったらしい。

パチリと目を開けた先でにこにこと笑いながら「どうですか?」と、聞いてくる。

どうですかって……。


「あっ」


首元に触れる何かに気がついた。


「なに、これ?」

「ナズナのネックレスです」

「いや、見ればわかるけど……」


わたしの首元についていたのは、ナズナのモチーフがついたネックレス。

どうやら桃矢が急に迫ってきたのは、これを付けるためだったらしい。

変に勘違いして恥ずかしいや……。


「たまたま見かけたので買ってしまいました。プレゼントです」

「そっか、ありがとう……。雑草なのに可愛いね」


ナズナと呼べば聞こえはいいけど、本来はただの雑草。しかも、ぺんぺん草。

アクセサリーにすると可愛なって思えるのは、人の手が加わっているからなのかな。


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