きみに触れられない
「ごめんね。大丈夫?」

慌てて立ち上がると、綾芽ちゃんは心配そうな顔で私を見ていた。

「こっちが聞いてるんだけど」

「あ、私は大丈夫だよ。ありがとう」

ごめんね、と笑って謝る。


「嘘」


綾芽ちゃんはその瞳を鋭くした。

そして優しく私の両頬を包み込んだ。


「え…?」

「ミサ、泣いてる」


何があったの、と綾芽ちゃんは穏やかな声で言う。


「教えてよ。何かあったんでしょ?」


きっといつもなら、『大丈夫だよ。何でもないよ』と笑ってその手を振りほどいてしまうだろう。


だけど、今日は、今日だけは。


「少し、甘えてもいい…?」


その優しさに、溺れさせて。





「へえ、そうだったんだ」

屋上へと続く階段の一番下に座って、綾芽ちゃんは話を聞いてくれた。

将来のことで悩んでいること、それを知り合いに言ったら泣いてしまったことを伝えた。
< 101 / 274 >

この作品をシェア

pagetop