きみに触れられない
「でも以外だなー」

綾芽ちゃんは腕を組んで伸びをした。

「あのミサがこんなに悩んでいるなんて、思ってもみなかった」

それから私の方をじっと見た。


「きっとミサは目標がちゃんと決まってて、その道に向かって一直線なんだろうって思ってた。

それに、ミサならどこにだって行けるだろうから、未来も大学も選びたい放題でいいだろうなって」


その言葉に私は俯いた。


「そんな、そんなわけない……」


いくらテストの点が良かったって

いくら偏差値が高かったって


未来が選べなかったら、何の役にも立たない。


「綾芽ちゃんは、なんで建築士になろうと思ったの?」


すると綾芽ちゃんは「うーん…」と少し考えるような仕草をした。


「ちょっと真面目な話するね」


そう前置きしてから話し出した。


「うち、母子家庭でさ。お父さんがいないのね」


突然の告白に私は目を見開いた。


「そ、うなんだ」


なんて言ったらよいのか分からない。

だって、そんな様子、微塵も感じさせなかった。

お父さんがいなくて寂しいだとか、そんなこと一言も聞いたことがない。


「そんな顔しなくていいよ。父さんとは連絡は取り合ってるし、たまに会ったりはするから」


綾芽ちゃんは笑った。

とても強いひとなんだと改めて思った。
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