きみに触れられない
「米山さんの説明がとても分かりやすかっったよ」

興奮ぎみに感謝してくれる岩田さんに「そんことないよ」と謙遜しながら答える。

ちょっとだけ仲良くなれたような気がして嬉しかった。


「さすが米山さんだよ!」

「学年1位は教え方まで違うんだね!」


その瞬間、サーッと興奮が冷めていく心地がした。

天にも昇るような嬉しい気持ちが、急降下して地面に叩きつけられたような感覚だった。


「そんなこと、ないよ」


震えそうになる声を必死に保つ。

自分の席に座っていたカナが固唾を飲んでこちらを見つめているのが分かった。


「み、米山さ__」


カナが私の名前を呼びかけたその時、チャイムが鳴った。

担任が入ってきて、「朝礼をはじめまーす」と言う。


「きりーつ」


学級委員の面倒くさそうな声で立ち上がり、挨拶を済ませると、連絡事項が伝えられた。

朝礼が終わるとカナが振り替えって小さな声で「ミサ」と話しかけた。


「なに」

「あのさ、さっきのことなんだけど」


カナが眉を下げて、少し歯切れ悪く言う。

それだけで何を言いたいのかが、大体理解できた。

幼馴染みの勘というやつだろうか。


「大丈夫、気にしないで」


私は1時間目の数学の準備をしながら、カナの方を一切見ないで「大丈夫だよ」と繰り返した。

きっと、カナが気にしているのは、さっきの私と岩田さんと森谷さんとの会話。

せっかく仲良くなれたと思ったのに実際はそうでもなかった、ただそれだけのことをカナはすごく気にかけている。

私が傷ついたんじゃないかと、きっとすごく心配してくれているし、自分が無駄なことをしたんじゃないかと自分を責めているのだろう。

カナは変なところで全部を自分の責任だと背負い込むクセがある。

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