きみに触れられない
「カナは悪くない。思い上がった私が悪いの」
「ミサ、それは違__」
「あ、宿題を黒板に書く当番が決まったみたいだよ、『塩谷くん』」
黒板の方に行ってみなよ、と声をかける。
カナは一瞬黙るとため息を吐いて「分かった、行ってくる」と立ち上がった。
「…言っておくけど、本当に、気にすることじゃないから」
そう言い残して、カナは黒板の方へと向かう。
『本当に、気にすることじゃないから』
__そんなの、無理だよ。
私は心の中で返事をした。
おかげで、午前中の授業は全部上の空だった。
溜め息しかでてこない。
黒板を書き写しては、窓の外を眺める。
雲がゆっくり流れていった。
そして昼休みになって、昼食を食べようかとお弁当を広げたところで「米山さーん!」と廊下から私を呼ぶ声がした。
「はい」
一体誰が呼んだのかと思っていたら、担任の女の先生が廊下から私を呼んでいた。
「昼休みにごめんなさいね」
「いえ…」
「実はね、米山さん、まだ書いてなかったでしょ?」
先生は持っていたバインダーから紙を1枚取り出して、私に手渡した。
「進路希望調査」
ズキンと胸が痛んだ。
「珍しいわね、米山さんが提出物を忘れるなんて」
うっかりしてた?なんて、明るく笑う先生に愛想笑いを返す。
「すみません」なんて言えば「いいよ、米山さんだってたまにはミスくらいするでしょう」と言われてしまい、何だか申し訳ない。