きみに触れられない
綾芽ちゃんに手伝ってもらいながら浴衣を着る。

私の浴衣は白地に朱色やピンクの菊が描かれたデザインのもの。

白地に水色や青のアジサイが描かれた大人っぽいデザインの浴衣を完璧に着こなす綾芽ちゃんとは対照的だ。


「ミサ、可愛い」


綾芽ちゃんがため息を漏らす。


「すごく似合うよ」

「そ、うかな?」


鏡の前でくるくる回る。

ああ、久々に浴衣を着た。

お父さんの務める病院で行われた七夕会のとき以来だろう。


「せっかくだから、髪もメイクもしよう」


綾芽ちゃんはとても張り切っているらしかった。

それもそうだろう。

2人きりじゃないとはいえ、カナとデートだから。


「ねえ、私行くのやめようかな…」


遠慮がちに言えば、「なんで!?」と綾芽ちゃんは驚きでいっぱいの顔をした。


「だって…」


私がいたらきっと、2人きりになるチャンスが少なくなってしまう。

せっかく綾芽ちゃんがカナのことを好きなのに、私なんかがそのチャンスを奪っていいはずがない。


すると綾芽ちゃんは「あたし、ミサと行きたくてミサを最初に誘ったんだよ?」と言った。


「え?」


「確かに塩谷君とも仲良くなれたらいいなとは思ってるけど、誘ったのはたまたまあの時近くにいたから。

もし塩谷君があの場に居なかったら、あたし、誘わなかったよ」
< 128 / 274 >

この作品をシェア

pagetop