きみに触れられない
「綾芽ちゃん…」

「あたしはミサと行きたいの。だからミサも一緒に楽しもうよ」


ニッと笑う綾芽ちゃんを見て、やっぱり綾芽ちゃんには敵わないと思った。

綾芽ちゃんは私に敵うはずがないなんて言ったけど、それは綾芽ちゃんの思い違いだ。

だって、こんなに素敵な笑顔をする人が、こんなに優しい人が、選ばれないはずがない。


「…うん!」


私は頷いて笑って見せた。

綾芽ちゃんはそれを見て安心したように笑った。


その笑顔を見てぎゅっと胸が締め付けられたけど、気づかないふりをした。


それから綾芽ちゃんによって私の髪や顔は見違えるほど変えられていった。





「お待たせー!」


集合場所にカナの姿を見つけた私たちはカランカランと下駄の音を響かせながら速足で駆け寄る。

浴衣を着た私達の姿に驚いたのか、カナは目を見張っていた。


「二人とも、いつもと雰囲気が違うな」

大人っぽい、と感心するカナに、綾芽ちゃんは「そうかな?」と少し嬉しそうな表情を見せた。

私はそれを一歩引いた立場から見ていたのだけど、カナが「米山さん、本当にいつもと違うな」と改めて言うので、前に出ざるを得なくなった。

「綾芽ちゃんが色々やってくれたの」

するとカナは「器用なんだな」と綾芽ちゃんを見た。

綾芽ちゃんは照れながら「そんなことないよ」と否定していた。
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