きみに触れられない
「この紙あげるから、今度の進路学習の時間までに出してね。もしかしたら大学選びに迷ってるかもしれないけど、米山さんならどこも大丈夫だし、何なら相談に乗るわよ」

「じゃあ、授業頑張って」と先生は颯爽と歩いていった。


私はその後ろ姿を見つめながら、複雑な思いで佇んでいた。


__ああ、分かっていない。

先生は、全然、分かってないよ。


私が、こんなに大事な書類で、うっかりなんてするはずがないのに。


うっかり忘れて出さないでいるわけじゃない。


その可能性に、先生は、気づいてくれないんですね。


溜め息をひとつ吐いて教室に戻ると、カナに呼び止められた。


「さっき先生に呼ばれたみたいだったけど、どうした?」


心配そうなカナに「別に、何も」と席につきながら答えるけど、手に持っている調査用紙のせいで、簡単に見抜かれてしまう。

「出し忘れたの?」

「別に、そういうわけじゃない」

「ふーん、言いたくないんだ」

カナは面白そうに笑っている。

「なんで、そんなこと」

分かるの、と聞こうとしたけれどそれより先にカナが言った。


「分かるよ、米山さんのこと。ここにいる誰より、俺がいちばん分かってるつもりだ」


__私にはカナの考えがさっぱり分からない。

クラスの中で、たくさんのクラスメイトがいて、誰がカナと私の話を聞いているか分からないこんな状況下で、なぜそんな危ないことを言うのだ。

私とカナが付き合ってるんじゃないかと勘違いされて変な噂が立ったら、一体どうするつもりなのだろう。

カナだって、困るくせに。
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