きみに触れられない
屋台は食べ物ばかりではなかった。

スーパーボールすくいに、金魚すくい。

射的もあれば、わなげもあった。

なんでもありの楽しくて懐かしい雰囲気に胸は少し高鳴っていた。


「あっ、かき氷!」

綾芽ちゃんは声を上げた。

「ちょっとあたし、買ってくるね!」

そう言い残してまるで風のように綾芽ちゃんは列に並んだ。

あまりにも一瞬のできごとに呆然としていると、「俺も買ってきていい?」とカナは言った。

「あ、うん」

「ちょっと待っててなー」

カナはそう言い残して行ってしまった。


何もやることがなくぼうっと照らすオレンジを眺めた。

お祭りの人混みは苦手だけど、この明かりは好きだ。


明るくて、元気で、快活で、だけど、切なくて、懐かしくて。

まるで喜びも悲しみも混ぜ込んだような。


そんなことを考えているうちに、とカナは「お待たせ」と戻ってきた。

手には美味しそうな食べ物を持っていた。


「あれ、川島さんは?」

「まだ並んでるよ」

ほら、と指さした先には綾芽ちゃん。

私達の視線に気づいた綾芽ちゃんは両手を顔の前で合わせて「ごめんね」と口パクした。

暑いからかかき氷の屋台はとても人気だった。


「カナは何買ったの?」

「から揚げ」

おいしそうだろ、とカナは自慢げに見せた。

大きいから揚げが串刺しにされてカップの中に入っている。

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