きみに触れられない
「で、ミサはこっちな」
「え?」
はい、とカナが手渡してきたのは、いちご飴。
2個のいちごが串刺しになって、赤い艶やかな飴でコーティングされている。
「ど、うして…」
「ミサ、好きだろ?いちご飴」
カナは白い歯を見せて笑った。
__私がお祭りに行っていたのは幼い頃で、その時、ライトを浴びて輝く赤いいちご飴に目を奪われた。
たくさんの種類の出店の中で唯一目を奪われたのはそれだった。
お母さんが買ってくれたそれは甘くて、酸っぱくて、おいしくて。
忘れられない、縁日の味。
それからお祭りに行くたびに出店でいちご飴の屋台を見つけては買っていた。
すっぱくて苦手だという人もいるけれど、私は逆にその酸味が好きだった。
もちろんカナの家族とお祭りに行った時も、買っていた。
__それをカナは、覚えてくれていたんだ。
「…ありがとう」
なんだか泣きそうになった。
「ミサっていえばいちご飴のイメージだよな」
「なにそれ」
「祭りでいちご飴しか食べてなかっただろ」
「たしかに…」
ほらな、とカナは誇らしそうに笑っていた。
なぜそこで誇らしそうな表情をするのか分からないけれど、それでも昔のことを覚えてくれていることがすごく嬉しかった。
「本当にありがとう」
「おう」
すると「ごっめーん!」と綾芽ちゃんが小走りで戻ってきた。