きみに触れられない
「この辺にしようか」

カナが言ったのは、花火大会のメイン会場からは少し離れた場所だった。

周りにはたくさんのカップルや家族連れがいるけれど、3人で座れるくらいのスペースは空いていた。

「ここだとたぶん、いい感じで見れると思う」

「詳しいね」

「まあな」

嬉しそうに笑うカナに胸がぎゅっと締め付けられた。


__カナのそんな顔。

見れて嬉しいけれど。

でも、なんか、嫌だ。


なんて思う自分が、もっと嫌だ。


はあ、と溜息を吐いた。

それからリンゴ飴をかじった。

あまくて、だけどやっぱり、すっぱかった。


「花火、何時からだっけ?」

綾芽ちゃんが尋ねる。

「9時からだからあと15分くらいだな」

カナが腕時計を見ながら尋ねる。


「楽しみだね」


微笑む綾芽ちゃんはすごく可愛かった。

リンゴ飴を持つ手にぎゅっと力を入れた。


__綾芽ちゃんは、私には敵わないって言ったけど、やっぱり私じゃ無理だよ。


花火が打ち上がるまであと5分。

2人は気が合うようでとても盛り上がっていた。

どうやら同じ歌手が好きなようだ。

けれど私はその歌手を知らなくて、話には入れなくて、ぼうっと屋台の明かりを眺めてはリンゴ飴にかじりついていた。

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