きみに触れられない
綾芽ちゃんは、カナが好きで。

きっと、カナも綾芽ちゃんのことはよく思っていて。


じゃあ、私はどうして私はここにいるのだろう?


自分がここにいる理由が分からなくなった。


「へえ、今度ライブ行くのか」

いいなあ、と羨ましがるカナに、「いいでしょ~」と楽しそうな綾芽ちゃん。

「アルバム貸してよ」

「ああ、あさって持って行く」

「楽しみ」


2人はとても仲のいいカップルのようだった。

__ああ、私は邪魔になってしまうなと思った。

ここにいない方がいいと思った。


2人がうまくいくように。

2人が幸せになれるように。


私は盛り上がる2人からそっと離れた。


出店が立ち並ぶ方まで歩いて、それから2人を探した。

2人は私がいなくなったことに気づいていない様子で楽しそうに盛り上がっていた。

きっと2人ならうまくいく。

きっと2人なら、幸せになれる。


__打ち上げ花火は、2人だけで。


そう心の中で呟いて、私は人混みの中に姿を隠した。

その時だった。


__ドンッ


空が明るく光る。

沸き起こる歓声。

振り返れば花火が咲いていた。

空に咲いては消えるそれをしばらく眺めると、私はさらに足を進めた。
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