きみに触れられない
5章

屋上、彼女の秘密



あの子に対する第一印象は『もの静かな人』。それだけだった。


米山美咲。


可愛らしいけれど、誰とも話さない、本当に静かなクラスメイト。

いつも勉強か読書をしていて、天才的に頭が良い。

模試や試験では常に学年トップクラスの成績を取っているらしい。

将来の夢は分からないけれど、どんなに困難な夢を描いていても簡単に歩んでいけるのだろう。

何も苦しまずに、約束された成功への道を。

そう思うと、少し羨ましかった。


あたしは彼女のように、簡単に夢を叶えることはできない。


夢を叶えるために行かなければならない大学へ合格するための学力さえ、足りていない。


__もしあたしが米山さんだったら。


そんなことを思う日もあった。


けれど彼女にも悩みはたくさんあった。

友達とうまく話せないこと。

将来の夢について。


その悩みを聞いているうちに、雲の上みたいな存在だったミサが急に身近な存在に感じられた。

ああ、この子も悩むことがあるんだ。

当たり前だけど、そんなことを思った。


同時にミサがすごく可愛いことに気づいた。

いつも笑わなかったミサの笑った顔。

無邪気で、優しくて、可愛くて。

名前の通り、美しく咲く花のような愛らしい笑顔だった。
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