きみに触れられない
『その先輩が目覚めたとき、いい報告ができるように、勝って』


あいつの不安そうな顔。

不安だけど、勇気をだした顔。

不安そうにきつく握られた両の拳。


ああ、ミサはどれだけ頑張って、どれだけの勇気を出して、この言葉を言ったんだろう。


最近のミサは変わった。


いつもはつまらなさそうというか、表情のない顔をしていた。

優しすぎるせいで色んなことに気を遣って、友達と呼べる存在も俺しかいなくて。

楽しいことなんて何もない、ただ毎日を淡々と過ごしているようなやつだったのに。


最近のミサは、いろんな表情をする。


特に学校で嬉しそうな顔をするようになった。


両親のこととか、友達関係で悩んでいたこととか。

ミサの悩みをずっと近くで見てきたからこそ、あいつの変化は俺にとってもすごく嬉しいことで。


良かったと思うと同時に、少しだけ寂しくも感じる。


ずっとくっついて離れなかった小さい子供が、自分から離れて行くような感覚。


なんだかミサの親になった気分だ。


そんなことを思って可笑しくなって少し笑った。

なんだそれ。

そんなことを思っていると、ミサがいないことに気づいた。
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