きみに触れられない
「今日はね、英語の授業があって__」

ミサは誰かに向かって話すような話し方で今日の午前中の出来事を話していた。

まるで透明な誰かがそこにいるような。


俺は川島さんの方を見た。

川島さんも俺を見て、更に困った顔をした。

川島さんが言っていた言葉の意味がようやく分かった。


更に驚きだったのは、何かに向かって話すミサの表情は俺が今まで見たことのないような顔だったことだ。

嬉しそうで、楽しそうで、頬をほんのり染めて。

この場にいることが嬉しくてたまらないと言うような顔だった。


__ミサが、こんな顔をするなんて。

衝撃、だった。

ミサがこんなに楽しそうな顔をしているところを見たことなんて、今まで一度もない。

ミサが好きなチョコレート味のアイスを食べている時ですら、こんな顔はしていない。


__ミサ、お前は誰と話している?

どうしてそんなに嬉しそうな顔をする?


なあ、ミサ。

俺達ずっと一緒にいたのに、誰よりもお前のことを分かっているつもりだったのに。

俺は今、お前が分からない。
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