きみに触れられない
「きりーつ」

気だるげな声で、クラス中が立ち上がる。

おはようございます、と言っているのだか言っていないのだかよく分からない言葉と椅子を引きずる音が相まって、曖昧なまま朝の挨拶は済まされる。

あくびを噛み殺す隣の人を見つつ、私の緊張は高まっていた。

ぎゅっと強く拳を握る。

朝礼が終わったら、あれを__進路希望調査を、提出しようと思っている。

教卓の前で連絡事項を淡々と伝える担任の先生の顔をじっと見ながら、朝礼が終わるのをじっと待っていた。

朝礼が終わるとすぐに教室はざわめき出した。

教室からすぐに出て行こうとする先生の背中を追いかけた。


「先生!」


大声で叫ぶ。

先生は少し驚いたようにびくりと肩を上げると振り返った。


「あ、あら、米山さん。どうしたの?」


声こそ普段通りだけど、少し顔はひきつっているように見える。

そんなに私が大声を出したことは驚くことだったのだろうか。

確かに普段私は静かな人というイメージがあるかもしれないけれど。


「先生、あの、遅くなってすみませんでした!」


紙を差し出すと、先生は一瞬分からないという顔をしたけどすぐに何のことか分かったようで「確かに受け取ったわ」と微笑んだ。
< 154 / 274 >

この作品をシェア

pagetop