きみに触れられない
何と答えたらよいのかも分からずそっぽを向けば、「可愛い」とさらに言われる。

ハルの言う「可愛い」の基準がおかしいのではないかと思う。


「もう、帰る」

私はお弁当を片づけると立ち上がった。


「もう行っちゃうの?」


縋るような、まるで捨てられそうな子犬のようなつぶらな瞳。可愛い瞳。


「もう、時間だから」


思わず留まりたくなる感情を押し殺して、私は歩き出した。

「そっか」

ハルは笑っていた。


「じゃあね」

「またね」


手を振りあって別れる。

教室に向かう足取りは軽かった。


ガラ、と音を立てて扉を引き教室に入る。

教室内はまだまだ騒めいていて、誰も私が教室に入ったことに気づかない様子だった。

特にそのことについては何も思わないが、カナと綾芽ちゃんが俯いて暗い顔をしていることが気になった。

「どうしたの?」

慌てて近寄って尋ねる。

すると2人は顔を見合わせて、「あのさ…」と話し出した。
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